このシリーズについて
投資は甘くありません。相場は平気で資産を半分にします。だからこそ、数字と現実に基づいた判断をできる投資家だけが生き残ります。
この3部作シリーズは、”投資を続ける力” と “勝ち続ける戦略” を身につけるために作りました。インデックス投資を「何となく安心そうだから」ではなく、仕組みと弱点を理解した上で扱えるようになることが目的です。
1:メリット編(基礎+理論)→ 2:デメリット編(リスク認識)→ 3:戦略編(コア・サテライト実践) の順で読むと理解が最も深まります。
まずは結論から。インデックス投資は完璧ではありません。万能でもなければ、ノーリスクでもありません。
むしろ、メリットばかりを信じて始めてしまうと、
- 相場が荒れた瞬間に積立を止める
- 暴落に耐えられず底値で損切り
- 期待したほど増えず失望
という典型的な失敗を招きます。
正しく理解している人だけが、暴落を乗り越えて最終的に勝つ。
この記事では、インデックス投資の5つの本質的な弱点を、データや歴史的事例を使って深掘りします。そして後半では、弱点を理解した上でどう設計すればいいかのヒントも提示します。
まず絶対に理解すべきこと:インデックス投資は“安全”ではない

インデックスって“安全そう”ってイメージが強いんですけど……実際はそんなにリスク高いんですか?
最初に強調しておきます。
インデックス投資は安全投資ではありません。リスクを取る投資です。元本は普通に減ります。
「分散されているから値動きが小さい」と誤解しがちですが、それは個別株特有のリスクが小さいというだけで、市場全体が沈むときは一緒に沈むという性質があります。
実際の暴落データを見ましょう。ここでは“どの局面が投資家にとって最も心理的負荷が大きかったのか”という視点も意識してみてください。
| 暴落局面 | S&P500の下落率 | 期間 |
|---|---|---|
| リーマンショック | -56.8% | 2007〜2009年 |
| ITバブル崩壊 | -49.1% | 2000〜2002年 |
| コロナショック | -33.9% | 2020年2〜3月(約1ヶ月) |
下落率の計算は S&P Dow Jones Indices および Yahoo! Finance などの公表データ(S&P500 指数)をもとに、高値と安値の実値から算出しています。
半分以上資産が減る局面は普通に存在します。「インデックスなら安全」という思い込みからスタートすると、この現実に耐えられません。暴落はメンタルとの戦いであり、下落の“深さ”だけでなく“期間”も重要です。
デメリット①:市場全体が下がると逃げ場がない



全部に分散してるなら、どこかしら助かるイメージがあったんですけど……“逃げ場がない”ってどういうことですか?
インデックス投資は市場全体を買う投資です。つまり、
市場が崩れると100%巻き込まれる。回避手段がほぼない。
個別株なら、逆行高する銘柄を探すという手法があります。しかしインデックスでは、
- 日本株が下がれば日経平均も下がる
- 米国株が下がればS&P500も下がる
- 世界景気が悪化すれば全世界株もまとめて下がる
という構造です。回復にも長時間かかります。下表の内容も心得ておきましょう。
| 暴落 | トップ回復までにかかった期間 |
|---|---|
| リーマンショック | 約5年 |
| ITバブル崩壊 | 約7年 |
| コロナショック | 約6〜12ヶ月(異例の早期V字) |
下落は一瞬、回復は長年。
よくある失敗パターンとしては、
- 暴落で怖くなって売る
- その後の反発を取り逃す
- 「インデックスは増えない」と言ってやめる
といったものです。暴落に耐えられない人に、インデックス投資は向きません。
デメリット②:市場平均しか取れない=大勝ちはできない



インデックスって“コツコツ増える”イメージですけど、やっぱり一発ドカンと増えるようなチャンスは取りにくいんですか?
インデックス投資の本質は、市場平均(ベータ)を取りにいく投資です。つまり、成長企業がどれだけ強く伸びても、分散していることでその上昇益は薄まります。つまり、
市場平均以上のリターンは狙えません。
例えば、過去10年で大化けした企業は次のようなものがあります。要は化け物たちです。
| 銘柄 | 株価上昇率(10年) |
|---|---|
| NVIDIA | 約92倍 |
| Tesla | 約37倍 |
| Meta | 約14倍 |
インデックスでは、これらの銘柄が指数に組み込まれていても、比率はその中の一部でしかありません。全体の中の1つだから、上昇の恩恵は薄まります。
インデックスは大勝ちできない代わりに、大負けもしにくい投資。
この理解がないと、途中で焦って「もっと増える投資」に逃げて失敗します。(失敗と断言して申し訳ありません。もちろん勝ち組に回る方も大勢いらっしゃいます。)
デメリット③:実は分散できていないことがある(偏りリスク)



500銘柄に分散って聞くと、なんとなく安心しちゃうんですが……それでも偏りってそんなに大きいものなんですか?
多くの人が誤解していますが、インデックス = 完全分散ではありません。例えば、ここ大人気のインデックスであるS&P500は、時価総額加重方式なので、時価総額の大きい企業ほど比重が高くなる仕組みです。
2025年時点のS&P500構成比率を見てください。
| 銘柄 | 構成比率 |
|---|---|
| Apple / Microsoft / Alphabet / Amazon / Meta / NVIDIA / Tesla | 約34% |
500社のうち7社で全体の3割超を占めています。これ、本当に“分散”と言えますか?
もしハイテクセクターが調整すれば、指数全体が大きく揺れます。実際、2022年はS&P500が-19.4%下落しましたが、これはハイテク主導の下げでした。
上記は、例としてS&P500を挙げましたが、
- 実はセクター集中リスク
- 米国への国別集中リスク
- 通貨リスク(ドルに依存)
を抱えるインデックスが多数存在しています。
大事なのは、「だからダメ。」というわけではなく、それを承知の上で投資すべきということです。
デメリット④:トラッキングエラー(指数との誤差)が存在する



同じインデックスファンドなら、どれ選んでも似たようなもの…って思ってたんですが、そんなに差が出ることがあるんですか?
インデックスファンドは指数に完全に連動することを目指しますが、現実にはズレます。
この誤差をトラッキングエラーと言います。例えば、年間で0.5〜1.0%程度のズレが生じるファンドもあり、長期になるほど複利で差が広がっていく可能性があります。
原因は次のような内容が挙げられます。
- 信託報酬などのコスト
- 資金流入出のタイミングによる売買ズレ
- 何千銘柄もある指数を完全コピーできない
- 税金や配当再投資ラグ
そのため、ファンド選びでは、
- 手数料の安さ
- 実際の指数連動率・乖離実績
- 運用会社のトラックレコード
を確認するのが望ましいとされています。
デメリット⑤:思考停止で買うと、アセットアロケーションに失敗する



正直、“とりあえずS&P500”って考えたことあります…。それってやっぱり危ないですか?
SNSでよく見る誤解がこちら。
「インデックスは安全。とりあえずS&P500だけ買っとけばいい!」
これは危険な思考です。
- 米国株だけに集中
- ドルに集中
- ハイテクに集中
という3つの偏りが同時に発生していることを認識しておく必要があります。(そういったリスクを承知で選択する分には一向に構いません。)
実際の対策としては、
- 全世界株(ACWI)をコアにする(※それでも米国中心)
- 先進国株・新興国株を追加(※先進国株でも米国中心)
- 債券や金でリスク調整
- 定期リバランスのルール作り
といった設計が考えられます。
インデックス投資は“考えなくていい投資”ではなく、“考えた上で選ぶ投資”ということを忘れてはなりません。
まとめ:弱点を知ってこそ、インデックス投資は本当の武器になる
インデックス投資は素晴らしいです。だからこそ、弱点を理解した上で運用することが極めて重要です。多くの投資家にとって最適解の1つですが、理解不足のまま始めると、暴落に耐えられず途中離脱してしまう可能性も十分あります。
“実際に起こって初めて痛感する”ポイントをまとめておきます。
| デメリット | 本質と注意点 |
|---|---|
| 市場全体の下落に巻き込まれる | 暴落は必ず来る。半値まで落ちることもあり、回復には年単位かかる。心理的に最もきつい局面になる |
| 大勝ちできない | 分散により希釈され、“ホームラン”は取りづらい。焦って攻めに転じて失敗する典型パターン |
| 実は偏りが大きい場合がある | S&P500はハイテク7社で約30%。国・通貨・セクター集中リスクを理解すべき |
| トラッキングエラー | 似た名前でも中身は異なる。ファンド選びは“指数連動実績”の確認が必須 |
| 思考停止リスク | 「とりあえずS&P500」では危ない。アセットアロケーションの設計こそ勝負 |
弱点を理解している人だけが、暴落を乗り越え、時間と複利の恩恵を受けられます。
📘 インデックス投資を“続ける力”を身につけたい方へ(おすすめ書籍)
このデメリット編でもお伝えしたとおり、インデックス投資は「何を買うか」以上に、どうやって続けるか が結果を大きく左右します。そんな“続けるコツ”を体系的に学べる本として、私が参考にした本がこちらです。
👉 『投資信託は、この8本から選びなさい。』(中野晴啓)
タイトルだけ見ると「おすすめ投資信託の本」に思えますが、本質は 「長期投資とどう向き合うか」「相場に振り回されないための考え方」 にあります。
- 暴落時にどう考えるか
- どんな基準で商品を選ぶべきか
- 途中でやめないための“マイルール”の作り方
といった、インデックス投資を継続するうえで大事な視点が整理されているので、「途中で心が折れるのが怖い」という方に特におすすめです。
▼ 行動につながるチェックリスト(今日できること)
- 自分が想定できる最大ドローダウン(許容損失額)を書き出す
- 今のポートフォリオの集中度(国・セクター・通貨)をチェックする
- どのファンドを“なぜ選んでいるのか”を1行で言語化する
- リバランスの基準(%や年1回など)を決めておく
- 暴落時に見る“行動ルールメモ”を作る
インデックス投資の基礎(3部作シリーズ)の残りはこちらです。



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