近年、日本株市場では企業の配当姿勢が大きく変化しています。特に2023年以降、東京証券取引所が上場企業に対して資本効率改善(PBR1倍割れ是正など)を強く求めたことを背景に、増配・自社株買いが過去最高水準となり、株主還元が加速しています。この流れを受けて、個人投資家の間では、配当による“安定収入”を得ながら長期で資産形成を進められる高配当ETFへの注目が急上昇しています。
日本株の高配当ETFには、個別株のように銘柄選定に悩む必要がなく、分散投資によって減配や業績悪化の影響を抑えられるメリットがあります。特に、四半期ごとに配当を受け取れるETFも多く、定期的なキャッシュフローを得ながら、NISA枠内で再投資することで複利が効きやすいという点も魅力です。
この記事では、数多くある国内高配当株ETFの中から筆者が厳選したETFに絞って特徴を比較し、それらを組み合わせた最適なポートフォリオ提案をします。ぜひ自分に合ったETFを見つける手がかりとしてください。
国内の主要高配当ETFの特徴を徹底比較
本章では、日本株式の高配当ETFについて、構成方針・信託報酬・利回り・銘柄数・分配頻度などの観点から、筆者が投資する対象と判断したETFを紹介します。
※ なお、2025年12月時点で日経平均等の株価が高く、分配利回りはここ数年に比べ低い状態になっています。
| ETF | 分配利回り(目安) | 信託報酬(税込) | 銘柄数 | 権利確定月(回数) | ファンド概要 | 向いている投資家像 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| [1478]iシェアーズ MSCI ジャパン高配当利回り ETF | 約2.3% | 0.209% | 30 | 2月・8月(年2回) | 大型・中型株を対象とした配当継続性や配当性向、財務体質等の基準を満たした企業の中から、MSCIジャパン指数(約320銘柄)の中から配当利回りの130%を超える利回りを持つ銘柄 | (守り・安定)減配耐性を重視/長期で安定収入を狙いたい |
| [1489]NEXT FUNDS 日経平均高配当株50 ETF | 約3.2% | 0.308% | 50 | 1・4・7・10月(年4回) | 日経平均株価の構成銘柄のうち、予想配当利回りの高い原則50銘柄で構成される株価指数に連動 | (高利回り)今の収益重視/配当生活を目指したい |
| [1494]One ETF 高配当日本株 | 約2.9% | 0.308% | 40〜50 | 4・10月(年2回) | TOPIXの構成銘柄のうち10年以上毎年増配しているか、安定した配当を維持している40~50銘柄 | (成長+安定)将来の増配を取り込みたい |
| [1698]上場インデックスファンド日本高配当(東証配当フォーカス100) | 約2.9% | 0.308% | 100 | 3・6・9・12月(年4回) | 時価総額および予想配当利回りに着目して選定された100銘柄(株式90銘柄、REIT10銘柄)を対象とする指数に連動 | (分散コア)セクター分散重視/値動きを抑えたい |
| [2529]NEXT FUNDS 野村株主還元70連動型上場投信 | 約2.6% | 0.308% | 70 | 1・4・7・10月(年4回) | 配当及び自社株買い等を基にした定 量的な指標によって積極的に株主還元を行なっている70銘柄を選定した株価指数 | (株主還元重視)配当や自社株買いなどの株主還元を重視 |
| [2564]グローバルX MSCIスーパーディビィデンド-日本株式 ETF | 約4.1% | 0.429% | 25 | 1・4・7・10月(年4回) | 一定の市場流動性を持ち配当の持続性があると見込 まれる配当利回りの高い25銘柄を対象とする指数に連動 | (高利回りアクセント)利回り強化を狙う |
補足説明
[1489]NEXT FUNDS 日経平均高配当株50 ETFと[399A]上場インデックスファンド日経平均高配当株50は同じ指数(日経高配当株50)を採用していますが、信託報酬は399Aの方が低コスト(0.16%)です。長期で保有する場合は、コスト差がリターンに影響するため399Aを選択肢にするのも合理的です。ただし、流動性は1489が優位(2025年12月時点)で、売買量が多い場合は1489の方が実用性が高い点も考慮しましょう。
次章では、これらを選択した理由と元となる高配当ETFの選び方(失敗しない基準)を解説します。選び方はいいから最適ポートフォリオの提案を見たい!という方は「最適ポートフォリオ提案(2銘柄・3銘柄の組み合わせ例)」に飛びましょう。
高配当ETFの選び方(失敗しない基準)
日本株の高配当ETFは銘柄数もコンセプトも多く、「どれが正解か分からない」と悩みやすいです。ここでは、長期投資・安定収入を軸にしたときのチェックポイントを整理します。
① 利回り“だけ”で選ばない
高配当ETFを選ぶとき、どうしても「分配利回り◯%」という数字に目が行きがちです。ただし、利回りが高すぎる商品は以下のようなリスクを抱えていることも多くあります。
- 特定の業種(商社・銀行・資源など)に偏っている
- 景気敏感株が多く、減配や株価急落の振れ幅が大きい
- REIT比率が高く、金利動向の影響を強く受ける
交付目論見書などに目を通し、自分の求めている銘柄が含まれているかをきちんと確認しましょう。
② コア(安定)とサテライト(利回り強化)を分けて考える
1本で“完璧なETF”を探すのではなく、次のように役割を分けると選びやすくなります。
- コア(安定土台):1478・1698 など、分散が効いていて減配耐性の高いETF
- サテライト(利回り強化):1489・2564 など、高利回りだが値動きも大きめのETF
ポートフォリオ全体では、コア:サテライト = 6〜8 : 2〜4 を目安にすると、利回りと安定性のバランスが取りやすくなります。実際に本記事の提案ポートフォリオもこの考え方に沿って設計しています。
③ セクター(業種)偏りをチェックする
高配当ETFの中には、
- 商社・銀行・保険
- エネルギー・資源
- Jリート(不動産)
など、特定セクターの比率が大きいものも多くあります。景気後退局面や金利上昇局面では、同じセクターがまとめて業績悪化・減配に直面することもあります。
複数のETFを組み合わせるときは、
- 商社・金融に偏るETF(1489・1577・2564など)
- 通信・生活必需品などディフェンシブ中心のETF(1478など)
- セクター分散を意識したETF(1698など)
を組み合わせることで、特定業種に偏るというリスクを薄めることができます。
④ 信託報酬と純資産規模・流動性
似たような指数・コンセプトのETFで迷ったときは、信託報酬と純資産規模・出来高を比較しましょう。
- 同じ指数ならより信託報酬が低い方を選ぶのが基本
- 純資産残高が小さすぎる商品は、繰上償還リスクやスプレッド拡大に注意
長期で保有するほどコスト差は効いてくるため、「コアに据えるETFほど低コスト・高流動性」を意識すると、トータルリターンを押し上げやすくなります。
⑤ 分配頻度と再投資のしやすさ
高配当ETFは、年2回・年4回の分配が主流です。頻度の多さ自体に大きな有利不利はありませんが、次のような視点は持っておくと便利です。
- キャッシュフロー重視 → 年4回分配型を多めにする
- 再投資前提 → 頻度よりも商品コンセプトとコストを優先
- 新NISAでの成長投資枠を活用 → 受け取った分配金を同一ETFや他のインデックスに機械的に再投資するルールを決めておく
「使う配当」と「再投資する配当」をざっくり分けておくと、生活防衛と資産形成の両立がしやすくなります。
⑥ 自分の投資スタイル・他資産との相性も考える
最後に、ETF単体の良し悪しだけでなく、自分の資産全体とのバランスも重要です。
- すでに株式インデックスや高配当個別株を多く保有している
- 代用FXやスワップ投資を組み合わせている
- 債券・現金比率をある程度キープしたい
これらの状況によって、「どの高配当ETFをどの比率で組み入れるべきか」は変わってきます。全体バランスを意識しながら、安定収入と分散を両立させることを意識しましょう。
関連記事:代用FXを使った資金効率の高め方の完全ガイドはこちら

次章では、ここまでの考え方をもとに、具体的な2銘柄・3銘柄のポートフォリオ例を提示していきます。
最適ポートフォリオ提案(2銘柄・3銘柄の組み合わせ例)
ここでは、長期投資で安定収入を狙う場合の代表的な組み合わせ例を紹介します。コアETFで安定性を確保し、サテライトETFで利回りを上積みする設計がポイントです。ご自身のリスク許容度や「安定重視か、利回り重視か」という軸で自分に合ったパターンを意識しながら読んでみてください。
2銘柄のポートフォリオ例(初心者〜中級者向け)
パターンA:安定重視バランス型
- 1478MSCI日本高配当利回り(70%) + 1489日経高配当株50(30%)
- 権利確定月:年6回(1・2・4・7・8・10月)
- 狙いと特徴
- 1478がディフェンシブ銘柄中心でブレを抑える
- 1489で利回りを強化し、トータル収入を底上げ
- 景気変動に比較的強い安定設計
- 向いている投資家像:初めての高配当ETF/収益と安定の両立を狙いたい
私が実際に保有しているのがこの1478と1489です。次の記事で実際に1478:70%、1489:30%保有したときに各銘柄がどの程度の割合、セクター別の割合がどの程度になるのか詳細に解説しています。興味ある方は、こちらもご覧ください。

パターンB:分散強化型(土台の安定が最優先)
- 1698東証配当フォーカス100(80%) + 2564超高配当セレクト25(20%)
- 権利確定月:年8回(1・3・4・6・7・9・10・12月)
- 狙いと特徴
- 1698は100銘柄の幅広い分散で安定感のある土台
- 2564の高利回り25銘柄でインカム強化
- 少額でも利回りを効果的に引き上げられる
- 向いている投資家像:変動リスクを抑えたい/幅広く分散したい
パターンC:収益重視型(積極運用)
- 1478MSCI日本高配当利回り(60%) + 2564超高配当セレクト25(40%)
- 権利確定月:年6回(1・2・4・7・8・10月)
- 狙いと特徴
- 1478が2564のボラティリティを吸収
- 利回りを最大化したい投資家向け
- 向いている投資家像:多少の値動きを気にしない/インカム最優先
以上のように2銘柄を組み合わせることで、いずれも単一ETFより分散効果が高まり、配当のブレも低減します。
例えば、1478と1489の組み合わせでは、金融・商社中心の1489に内包される景気敏感リスクを、1478が組み入れるディフェンシブ銘柄(通信や生活必需品セクターなど)で補完できます。逆に、1478単体では利回り面で物足りない部分を1489が補い、トータルでは安定性と収益性のバランスが向上することで、「安定収入」と「利回り向上」をバランスよく追求できます。
3銘柄のポートフォリオ例(分散と成長を両立)
管理は2銘柄のほうが楽ですが、3銘柄でポートフォリオを組むことで、より幅広い銘柄への分散投資が可能となります。参考までに下記のポートフォリオを提示します。
パターン①:安定 + 高利回り + 増配の三位一体モデル
- 1478MSCI日本高配当利回り(50%) + 1489日経高配当株50(30%) + 1494配当貴族(増配傾向)(20%)
- 権利確定月:年6回(1・2・4・7・8・10月)
- 狙いと特徴:現在の収入を確保しながら、増配効果で将来の配当成長も取り込む
- メリット:中長期保有時に複利効果が期待できる
パターン②:超分散 + 超高配当 + 株主還元重視
- 1698東証配当フォーカス100(50%) + 2564超高配当セレクト25(25%) + 2529野村株主還元70(25%)
- 権利確定月:年8回(1・3・4・6・7・9・10・12月)
- 狙いと特徴:分散を徹底しつつ、高利回りと自社株買いなどの総還元を取り込む
- メリット:利回りと安定性のバランスが高く、減配局面でも耐性がある
年間配当受取のシミュレーション
以下は、配当利回りが仮に3.5%だった場合の、年間に受け取れる配当金のシミュレーションです(税引前)。
(本来上記のポートフォリオの想定利回りを算出して当てはめるのがよいと思いますが、直近の株価の上昇が大きく、ここ数年の配当利回りと乖離するため、一律で3.5%として表を提示します。)
なお、国内株式の配当金には20.315%の税金(所得税+住民税)がかかるためご注意ください。ちなみに、 新NISAならその税金が0円であり、“税引前”金額がそのまま受け取れます。金額が大きくなるほど、NISAを活用するメリットが明確に感じられます。
| 投資額 | 想定利回り | 年間受取配当(概算) |
|---|---|---|
| 100万円 | 約3.5% | 約35,000円 |
| 200万円 | 約3.5% | 約70,000円 |
| 500万円 | 約3.5% | 約175,000円 |
| 1000万円 | 約3.5% | 約350,000円 |
「このくらいの資金なら、年間これくらいの配当が見込める」という感覚をつかんでおくと、目標設定(例:年間配当◯万円)がしやすくなります。
まとめ 〜安心して一歩を踏み出すために〜
高配当ETFは、無理をせずに着実な資産形成を続けたい人にとって、とても心強い選択肢です。分配金という“見える成果”があることで、投資を続けるモチベーションにもつながります。
特に今回紹介したポートフォリオは、
- コアETFで安定感を確保しながら、確かなインカムを得る
- 無理のない範囲で利回りを底上げする
という、長期投資で大切なバランスを大事にした設計です。
投資に完璧な正解はありません。でも、方向性を間違えなければ、時間が味方になってくれます。大きな一歩ではなくても、“続けられる一歩”を積み重ねていきましょう。


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